コンセプトは“あかりの杜”
人と環境に配慮した次世代型スマートオフィス
2017年3月に竣工したコイズミ照明(株)の新たな研究開発拠点、コイズミ照明R&Dセンター。LEDに特化した最新の研究施設と、知的生産性を高める革新的オフィスが融合した、“大きな実験室”であり“働けるショールーム”です。「あかりの杜」をコンセプトに、人と環境に配慮した「あかり文化創造企業」をめざす姿勢を具現化しています。
2017年3月に竣工したコイズミ照明(株)の新たな研究開発拠点、コイズミ照明R&Dセンター。この建設プロジェクトは、照明のブランドメーカーとして、ますます進化するLEDに対応するため、最新鋭の試験設備を導入する必要性から始まりました。商品企画、開発設計、品質保証、営業などの多様な部門がここに集結。開発スピードやヒト・モノ・ソリューションの質を向上させる革新的なものづくりをめざす場であると同時に、環境経営の推進に取り組む企業姿勢や「_ 違う発想がある」というブランドステートメントを具現化した先進的なオフィスです。
「省CO2」や「周辺環境との調和」「社員の多様な働き方への対応」といった、さまざまな課題の解決のあり方を発信する場にしたいというコイズミの想い。その想いが「あかりの杜」というコンセプトに込められています。3階から6階までを大胆な吹き抜けとし、天井には開閉式トップライトを。建物南側には特注サイズの大きな窓を使い、自然光と人工光を巧みに組み合わせできるよう設計されています。また、光だけでなく自然の風を取り込める構造で、環境と共生するオフィスを実現。各フロアの照明制御には、国際規格「DALI」システム(※)を導入。照明・空調・ブラインドを連携的に制御し、オフィスの快適性と省エネルギー化の両立を狙いました。また、フロアごとにデスクのレイアウトを変え、フリーアドレス制も導入。「あかり」を主役に多様な工夫が込められています。
(※)国際規格DALIシステム|ヨーロッパで誕生した世界に広がる照明制御の国際規格
使いながら調整し、当事者で考える
「ハコ」に「命」を吹き込む活動に、従業員一同で取り組みました
竣工後、社内でプロジェクトチームを結成し、月1回のミーティングをスタート。設備の使い方や運用方法を話し合う「オフィス改善チーム」、社員の意識や行動を変えていく「R&D活性化委員会」、部門長以上のメンバーで構成し、意思決定や部門間調整を行う「R&D会」の3チームです。竣工から1年。このプロジェクトチームのメンバーたちに、実感した3つの大きな変化について語ってもらいました。
作成:2018年コイズミ歴33年。商品カタログの制作を11年、営業を22年経験。「違う発想」のために心がけているのは「『悩む』ではなく『考える』」。
経営企画・社長秘書、広報を経て現職。途中2年の育休を経験。「違う発想」のために「人の意見を肯定的に聴く」ように心がけている。
コイズミ歴12年。パート入社から契約社員を経て、正社員となる。「違う発想」のために大切にしているのは「反対意見を恐れずに発言する」こと。
LED照明用デバイス、意匠系照明器具開発などを経て現職。R&Dセンターの「DALI」制御を一手に担う。「違う発想」のため「お客様の課題をとことん聴く」ようにしている。
品質管理、開発を経験した後中国へ。現地法人の社長などを務め、2017年帰国。「違う発想」のための習慣は「同業他社の方と話をする」こと。
中央の吹き抜けには、各フロアを見渡すことのできる、通称「コミュニケーション階段」が貫かれています。壁のない構造が、文字通り「心に壁をつくらないコミュニケーション」を後押ししているようです。
「別部署への質問や頼みごとなど、すぐに話しにいくようになりました。下りているときからフロアが見渡せるので、ハードルが低くなりました」(西井)
「総務は事務所で黙々と仕事をしがちですが、社員と関わることで仕事のやりがいが高まっています。今まで聞こえてこなかった小さな意見や要望もたくさん入ってくるようになりましたね」(荒川)
対話が増えるということは、「アイデアが集まる」ということ。各職種それぞれの立場から見えるものを集結することで、今までより一段高いアウトプットを出せるようになった、という声もあります。
「プロのデザイナー向けに『照明の面白さ』を伝えるセミナーをすることがあります。今までは自分の守備範囲だけで作っていたコンテンツを、デザイン室でプロダクトのトレンドについて聞いたり、営業企画から営業戦略や業界の動向を聞いたりと、多様な視点を織り交ぜて作るように。セミナーにご参加いただいたお客様からは、『照明だけではなく、インテリアを広く俯瞰した中での照明の話が聞けて良かった』などのお声をいただきました」(藤田)
「情報伝達のスピードがとてつもなく速くなりました。下のフロアから営業がきて『現場でこんな困っていることがあるけれどどうしたらいい?』と聞かれ、すぐ回答する。別部門の上司がすぐ後ろにいるので、即座に相談ができ、指示も降りる。周りもそれを聞いているので学びにつながる。今までだと、品質保証担当へ依頼して、そこから開発にきて…と時間がかかるわけです。感覚的には今までの7倍、情報伝達が速くなりました。週に1度の週報で知る情報が、その場で届き、その場で対応・解決できるようになりましたね」(森)
6階にある多目的スペースには天井まで届くホワイトボードが。執務フロアにも天井まで届く大きなボードを設置してあります。6階のボードには近辺のオススメランチ情報を書きこんだり、執務フロアのボードは打ち合わせに使われるほか、社内に周知したい情報を自由に書きこんだりして使います。
「プロジェクトチームの発案ですが、直接は言いにくいけれどお願いしたい『咳のエチケット』をイラストつきで描いてあるなど。直接言うのではなく、背中をそっと押すイメージの『ナッジ』という手法です。働き方改革の分野で使えるアイデアだということで早速取り入れています」(西田)
また、窓に向かってリラックスして座るスペースや、通称「こもり部屋」という一人分くらいのクローズド空間、立ったまま仕事ができるスタンド型デスクなど、気分や目的に合わせて選べる環境作りをしています。
「多目的スペースにいると、視界が開けるようにアイデアが湧いてきます。人が少ない10時と14時頃が狙い目。15時頃は植栽の影がブラインドに映って美しく……その光と影を写真に撮って、プレゼン資料に使おうかなと思っているところです」(藤田)
全従業員が注目していたのは、当然のことながら「照明の効果」です。当センターでは、照明と空調、ブラインドを制御システム「DALI」で一括コントロール、照明は太陽光の変化にならって時間や季節に応じた調光・調色を行っています。
R&Dセンターでは自然の光の変化に考慮した調光・調色を行い、一日の移り変わりを感じるように光の変化を再現させることで快適に仕事ができるような試みを行っています。その他にも部署の業務内容によって最適な光環境になるよう使用器具を変えて照明計画をしています。
「当初は、メンバー全員が天井を見あげていました(笑)。照明の色が変わる様子を、繊細にシビアにチェックして、すぐ森へ要望を出していた。森は1週間ごとに制御を変えていたのですが、各部門や職種の性質で感覚が違うので、それに応えることは難しかったと思います。けれどもそれが、お客様の現場で起こるリアルと同じ。良いケース研究となったと思います」(西井)
省エネの観点で減光したい一方、作業のしやすさへの配慮も欠かせない。人工光と自然光をどのようにミックスすると効果的かを探る必要もある。多様なニーズをくみ取りながら、より良い「あかり」を模索した1年でした。
照明はもはや、ただ「あかりを採る」だけのものではありません。オフィスであれば、従業員の創造性や生産性にも良い影響を与えることができるのではないかと考えています。実際、このR&Dセンターの照明効果により、「光色の変化によって時間を意識することができる」(森)「夕方になると『早く帰らなきゃ』と仕事スピードがあがってくる」(荒川)という声もあがっています。
「R&Dセンターが稼働して1年が経ち、従業員の声やデータが集まりつつあります。働きやすさや、知的生産性の向上などについて分析・検証し、より良い照明のご提案をしていくつもりです」(森)
取り組みへの評価
こうした取り組みの革新性により、本建設プロジェクトは、中小オフィスへの今後の波及効果に対する期待から「平成27年度第2回サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」として、国交省により採択されました。さらに竣工後には、緑豊かなオフィス環境、淀川水系に自生する樹種を中心に多様な植栽が植えられていることなどを評価され、「おおさか優良緑化賞」を受賞。1年ですでに3つの賞をいただいています。住宅街に溶け込むその姿を、これからも磨き続けてまいります。
周辺環境と共存しつつ外皮熱負荷低減を図る建築計画、知的生産性の向上も配慮した照明計画、照明と空調の連携した新たな制御など、中小規模のオフィスへの展開を目指す意欲的な取り組みであり、中小規模オフィスへの波及、普及につながるものとして、先導的と評価した。本事業を通じて、知的生産性の向上などの効果の検証がなされることを期待する。