2023年4月にグランドオープンした「宮前迎賓館 灯明殿」は、1200年以上にわたって福岡・博多を見守ってきた櫛田神社に隣接する結婚披露宴会場です。境内への敬意を表すものとして、神仏に祈りを捧げる“献灯”のかたちを建築の原型とした建物全体が、ひとつの灯明※となり、障子とガラスを組み合わせた大きな窓からもれる柔らかな光が周囲一帯を照らします。
「今回の受注は、建築設計を担当された建築巧房様が、コイズミ照明の福岡営業所に直接お声掛けくださったことがきっかけです。これまで当社が手掛けてきた式場の照明設計事例をご評価いただき、建築照明から、調光・調色・シーン設定等の制御までお任せいただきました」(藤嶋)
※灯明:神前や仏前に献じる灯火
「博多の特別な日」を彩る施設として、こだわりが詰め込まれた灯明殿。極めて複雑な構造を理解した上での照明計画は、難度の高いものでした。
「傾斜天井であったり、階高が各階で異なっていたりと、平面の図面のみで全体の構造を読み解くには限界がありました。設計の初期段階は3DCGを用いてシミュレートしましたが、最も頼りになったのはやはり現場でした」(藤嶋)
「鉄骨を組んだ段階から竣工まで、現場に何度か足を運び、建物の規模感や実際の光の当たり方を自分の目で確かめながら計画しました。建物の中に入ってみると、想定よりも傾斜がきつく感じたり、建具や配管との兼ね合いで思うように照明器具を設置できないところがあったりと、いろいろな差異や発見があります。障子による光の拡散具合も、実際に目にすると想定とは異なりました。建築中の現場に何度も入らせていただけたことは、照明設計のあらゆる段階で助けになりました」(岡)
カギとなるのは、建物全体から発される美しく調和したあかり。障子からもれる柔らかな光の中にペンダントのきらめき感がアクセントとなる、メリハリのある仕上げです。これを実現するため、細部まで照明設計にこだわり抜きました。
「建物内の照明を障子を介して拡散させることで、建物全体が行灯のように美しく発光します。加えて、建物を縦に貫く吹き抜けの赤い壁を際立たせることで炎をイメージさせ、またペンダントのあかりがきらめきや揺らぎを演出しています。外に面した厨房やバックヤードなど裏方の部屋は、作業性の確保と外観とのバランスを両立させる色温度を選定。それにより、どこから見ても統一感のある、柔らかなあかりを感じていただけます」(岡)
「一方で室内のあかりは機能性を重視し、披露宴の各シーンに合わせてフレキシブルな光の演出を可能にしました。新郎新婦の入場や高砂席でのあいさつなど、シーンに応じた光の演出のプリセットを、シーン調光器を用いてワンタッチで呼び出すことができます。また、タブレット端末で、スポットライトの自動照射や調光・調色も可能にしました。それぞれのシーンに合わせた理想的な調光ができるかどうかも、私たちの提案次第です。お客様の理想とされるあかりの演出と、自分たちが計画したあかりが合致した瞬間は、やはりやりがいを感じます」(藤嶋)
建築巧房様やお施主様と直接納得がいくまで調整を重ねた結果、「シーン調光器で簡単に調光ができて使いやすい」「他の現場でもぜひ使いたい」と、ご満足いただきました。
特徴的かつ大型の建築である当プロジェクトには、岡・藤嶋2人の設計者としての知見を存分に活かしました。お客様との意思統一をスピーディーに進めるべく、窓口担当は藤嶋1人に集約。ご要望を社内へ持ち帰り、メインホールの設計は藤嶋、その他の空間の設計は岡が行いました。
「通常は1つの案件を1人の設計者が担当するため、自分の技量の中だけで完結してしまいがちです。しかし、今回は知見を持ち寄り、2つの目線から互いに学び合って取り組むことができました。2人とも、お客様の期待に応えたい気持ちが原動力となり、良い相乗効果が生まれました」(岡)
「お客様からも、現場に密着した細やかな対応を評価していただきました。オープン前に開催された内覧会では、福岡近郊の設計事務所様や内装業の方々からの反響も大きく、話題性のある建築となっています」(藤嶋)
2人の設計者が妥協なく高め合い、独創的な建築構造に向き合って完成した灯明殿。当社はこれからも、お客様から相談していただきやすい体制と真摯な対応を通じて、お客様の理想を実現してまいります。
照明のプロとしての視点や知識を発揮していただき、灯明殿の名に相応しい照明計画を実現することができました。天井高が異なることや、職人の技を取り入れた照明器具を多数採用したこと、障子越しの外観に均質なあかりが求められたこと。それらを統合し、機能性や経済性を成立させるため、設計の初期段階から協力を仰ぎました。特に、設計の核である献灯の表現については、障子からの距離感や照射方法等、コイズミ照明との照明計画だからこそ具現化することができました。